株式会社にし阿波ビーフ

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ハラルというイスラムのしきたり

にし阿波ビーフの谷藤です。にし阿波ビーフは、和牛の輸出を行っている会社です。ただ、輸出している先や方法のお話をすると、皆さん驚きの声を挙げられる方が多いですね。輸出先は主にマレーシアとインドネシアですが、通常の加工をして輸出しているわけではありません。ハラル方式と呼ばれる、全国でも珍しい方法を使って屠畜・加工をして輸出を行っているのです。皆さんは、イスラム教はご存知ですか?イスラム教徒であるムスリムと呼ばれる人たちには、イスラム法上で食べることが禁じられている食材や料理があります。これをハラム(禁じられたもの)と言います。例えば、豚肉やアルコールです。これは皆さん知っている方が多いかもしれません。実は豚肉やアルコール以外にも、ハラムはありますが、ハラム以外の許されたもの、それがハラルなのです。ご存知でしたか?牛肉は基本的にはハラルなのですが、イスラム式の方法で屠畜することが条件となっています。弊社ではその定められた方式に則って牛の屠畜、加工を行っています。つまり、私たちは「イスラム教徒の人が安心して食べられるハラル方式を採用した和牛の輸出を行っている企業」とも言えるのです。ハラル方式を採用している屠畜場は日本国内を探してもわずかに数ヵ所しかありません。日本国内においてはハラルという言葉は、まだ聞きなれないと思いますがイスラム教徒にとってハラルは当たり前のものであり、絶対なものなのです。

作法まで徹底が求められるハラル

ハラル方式と言われてもイメージが沸かない方が多いと思います。そこで、ハラル方式というのは、どういうものなのか簡単な例をご紹介しましょう。イスラム教という日本人には馴染みが薄い宗教ですが、イスラム教で指定されるハラル方式は、加工方法だけでなく手順などの部分でも厳密に決められている所が多いです。例えば当社では、そもそも牛だけの屠畜場となっています。

通常は屠畜場というのは豚と一緒の所ばかりなので、この時点で既にハラル認証を取得することはとっても難しくなってしまうのです。また、必ずムスリムがお祈りをしながら屠殺をしなければならないので、弊社ではインドネシア人のムスリムを3名雇用して屠畜に従事してもらっています。さらに日本では火薬を使った屠殺銃を使って気絶させることが普通なのですが、ハラルの場合はエアガンで気絶させなければならないなど、その方法には細かい手順がたくさんあるのです。この細かい手順ややり方などを実際に整備して認定されると、ハラルの牛肉として出荷することが許可されるのです。

しかし、実は大変なことに、この手順は世界的に統一されたものではなく各国の認証機関によって手順が少しずつ異なるのです。そのため他国に輸出しようと思っても、その度に認証機関に申請する必要に迫られるという状況なのです。このようにハラル方式によって和牛を輸出するには大変なハードルがあり、なかなか取り組む会社が少ない中で当社は敢えてハラル方式に取り組んでいるのです。

命を身近に感じれる現場の中で

この仕事に就いたきっかけですか?私の父が、ここの経営者ではあるのですが、実は元々のルーツは谷藤ファームという牧場を経営しているという所から始まるでしょうか。今思えば、父の経営する牧場が当たり前にあって、そこに牛が当たり前にいる。この仕事がどうという感覚よりも、牛と共に過ごしていたということが当たり前という感覚の方が強いかもしれませんね。一時期は外の地域などに出ていた時期もありましたが、実家の仕事を手伝う形でこの仕事に就きました。ちょっと余談になるかもしれませんが、私の父は保健所から、よく猫を引き取ってきます。当然、保健所なので捨て猫ですが、沢山引き取ってきてしまい、もう実家は猫だらけですよ(笑)でも、そう言った命の慈しみに近い部分で仕事をしている私たちには、生命ってなんだろうということは毎日とっても身近に接する話題です。

もしかすると、そういう気持ちが父や私を支えている一部になっているのかもしれないなと感じることもしばしばありますね。

国産牛を内需で見ると気がついたことが

私たちは、ここ東みよし町の牧場はもちろんですが、宮崎でも和牛を飼養しています。全合計で約2,500頭の和牛を飼育しています。また、徳島県西部を中心に焼肉店や直売精肉店を展開するなど和牛を中心としたビジネスを展開していますが、和牛はブランド価値が高いものの消費量がすごく高いわけではないという問題がありました。実際に皆さん、最近和牛食べましたか?和牛=高級というイメージをお持ちの方も多いと思います。スーパーでも和牛より価格の安い国産牛や輸入牛肉を手に取ることが多いのではないでしょうか。

そこで新たな販路を模索する中で、ハラルというものに10年前に出会い、調査、研究を重ね、試行錯誤を繰り返し、ようやく平成28年3月にハラル専用の屠畜場、加工場が完成し、平成29年11月にマレーシアへの輸出を開始することが出来ました。イスラム教に対する認知度が低い日本でハラルに取り組むということは、とても難しかったのですが、多くの方々の助言やご協力により、なんとかここまで漕ぎつけられました。

新しい挑戦をする勇気

現在は、和牛というだけでは生き残っていくことが出来ず、和牛にプラスアルファの付加価値をつけていくことを求められている状況にあると考えています。田舎での地方企業においての新しい活力は率先して新しい挑戦を続けるということだと考えています。その新しい挑戦の中に、私たちのハラルへの取組も全部ひっくるめて入っている。そんな気がしています。同じ牛肉でも輸出先の仕組みに合わせてチャレンジすることで同じ和牛に全く違う価値が付与されます。東みよし町は中山間地域なので平地面積がさほど多くない地域です。北海道などの大きな牧場や九州の畜産が盛んな地域と比較してしまうと和牛の出荷総量で太刀打ちをしていくことは現実的ではありません。しかし見方を変えれば出荷総量は少なくても付加価値を付けて単価を上げていくということを考えれば、チャレンジしていくという勇気を持つことによって地方の中小企業でも対抗していけるのではないでしょうか。

ハラルについて理解されている方はもちろん、ハラルに興味のある方や、ビジネスとしてハラルに取り組みたいと考えている方がいらっしゃれば、何らかのお手伝いが出来るかもしれませんし、我々と一緒に和牛に新しい価値を提供できるようなことが出来ればと考えています。